駄目兄 兄弟SS5

「え、嘘やろ。桜子がそう言ったんか・・・・もう許してるって?」

兄さんがぽかんとした顔で、僕を見つめてそう呟いた。食べかけのお好み焼きが、お箸からぽろりと落ちた事に兄さんはまるで気が付いていない。僕はそんな兄さんを軽く無視しつつ、鉄板の上で程よく焼けたお好み焼きをへらで切り分ける。
「鶴橋風月」のお好み焼きが食べたいと突然言い出した兄さんに、無理やり連れて来られた風月の本店。確かに風月のお好み焼きは好きだけど、どうせ僕の奢りになるのだろうと思うとなんとなく納得がいかない。普通、割り勘か兄貴が奢るものじゃないのと考え出すと、腹立たしくなってきた。
というわけで・・・しばらく無視。

「なあ、響って?おい、俺を無視するなって」

兄さんが焦れて鉄板越しに僕の腕を掴んだので、ようやく質問に答えることにした。
「兄さんが、桜子さんと連絡取って会ってくれって言ってただろ?だから彼女の携帯に電話したんだけど、桜子さん『もう怒ってない』って言ってたよ。そう兄さんに伝えてくれって言ってた。それより兄さん、桜子さんの家を追い出されてから彼女と話もしていないんだって?携帯に電話しても、兄さんはでないからって彼女嘆いていたよ。」
僕がそう言うと、兄さんはバツの悪そうな顔をして視線を逸らせた。

「あー、まあな。だって・・あれや、怒ってる女に電話するのって面倒ちゅうか・・・嫌やん」

兄さんの無責任な言葉に僕は頭を抱えそうになった。その面倒なことを、僕に押し付けたわけだ。
「とにかくもう怒ってないってさ。よかったね、兄さん・・帰る場所ができて」
僕がお好み焼きを頬張りながらそう言うと、兄さんはさほど嬉しくもなさそうにお好み焼きをお箸でつついてる。
「まんまり、嬉しくなさそうだね・・・兄さん?」
「んっ。いや、嬉しいけどな・・・・桜子の奴、あの時めっちゃ怒ってたのに何で許す気になったんかなって思って。男の尻にあれを突っ込んでるところを見られんで?普通、愛想も尽きるやろ」
兄さんの言葉に僕は眉を寄せて口を開いた。
「兄さん、僕に桜子さんとの仲を取り持ってくれって言っておいてなんだよ・・その態度は?本当は、彼女と別れたかったの?」
僕がそう聞くと、不意に兄さんは真顔になった。そして、ゆっくりと口を開く。

「桜子がさあ・・・俺を部屋から追い出す時に言ったんや。『私だってもてるのよ。今だって会社の同僚から付き合って欲しいって告白されているんだから。あなたと違って、名の通った会社で真面目に働いているし大事にしてくれそうだし・・私にはあなただけが全てじゃないんだから』って言って泣いたからさあ」

桜子さんにそんな人がいるなんて思わなかったけど、彼女の美貌を考えるとそんなこともあるかなと頷けた。某有名お菓子メーカーで商品開発をしているキャリアウーマンの桜子さんには、兄さんよりその同僚の方が相手としては相応しい気がする。僕は兄さんを見ながら口を開いた。
「ひょっとして、兄さん・・・・彼女の為に身を引くつもりだったの?」
兄さんはちらりと僕を見たがすぐに視線をお好み焼きに移して、お箸で生地を突いている。

「んーーーっ。どうかな、俺自身・・ようわからへん。でも、桜子がそいつを選んで幸せになれるんやったら、ええかなって思った。俺も桜子もそろそろ潮時かなって思えてさあ。でも、あんな形で喧嘩別れみたいなこともしたくないし・・・まあ、複雑な気持ちなんや。そっか、怒ってないって言ってたか」
「どうするつもりなの・・兄さん?」

「だから、分からんってゆうてるやろ」

兄さんはそれだけ言うと、桜子さんの話題を避けようとしたので僕もそれ以上突っ込まないことにした。男女の事に部外者が口出ししてもしかたないから。それでも、一言だけ言うことにした。きっと兄さんは傷つくと思ったけど、家族の僕が言わないないときっと誰も言ってくれないだろうから。

「兄さんは、逃げてばかりだね。欲望いっぱい人間のくせに本当に欲しいものからは逃げようとする。イラストレーターになりたいって夢を今でも持ってるのに、もう諦めたって顔してさあ。桜子さんの事だって、本当は大好きでたまらないくせに・・・手放そうとするし。このままじゃ、本当に駄目人間になっちゃうよ!」

僕の言葉に兄さんは顔を顰めながら口を開く。

「色んなことから逃げてるのんは、俺だけやないやろ?お前も人の事言えんやろ。一番欲しいものが、頑張っても手にはいらんことってあるやろ?努力して、執着して・・・・得られん時の惨めさを味わいたくないって思うことは、逃げてることになるんか?そんなら、世間の奴等は大体逃げてるんと違うか?あー、あかん。弟のお前に説教されて気分が沈んできたやないか。責任とってなんとかしろ!」

兄さんが、急に語気を強めて僕を見つめてきた。僕は、ちょっと仰け反ってしまう。

「せ・・責任ってなんだよ」
「凹んだ気分を浮上させろってゆうてるんや。」
兄さんの言葉にまたもや頭を抱えそうになったけど、僕は思い直して真剣な顔をして口を開いた。

「彼方兄さんの事が好きだよ。」

僕の言葉に兄さんははっとしたように見つめてきた。そして、ちょっと笑って口を開いた。
「響・・・あめと鞭やな。甘い言葉や。あー、でも効くなぁ・・・その言葉、元気出てくる」
「桜子さんに言われたらもっと効くんじゃない?」

「・・・・・そうかもな」

兄さんはぽつりとそれだけ呟くと、後は他愛のない会話にするりと切り替えた。僕ももう兄さんに突っ込むのはやめて、その他愛のない会話に付き合うことにした。

『そんなら、世間の奴等は大体逃げてるんと違うか?』・・か。確かにそうかもしれない。でも大体の人間は、人生に折り合いをつけて生きている。僕もそうだ。でも、兄さんはきっとそんな生き方が難しいタイプなんだよね。夢を諦めたと言いつつ、本当は諦めきれずにいる。その中途半端な立ち居地が苛立ちとなって、今のいい加減な生き方に繋がっているのかもしれない。
だったら、思いっきり夢を追いかけるのもいいのかもしれない。例え夢が叶わなくても、挫折感だけではない何かを得られるかもしれない。そうした生き方をするなら余計、誰かの支えが必要だ。

きっとその誰かっていうのは・・・・桜子さんなんだろうね。

三年間も兄さんから離れずにいてくれた人なんて今までいなかった。
桜子さんには、この出会いは気の毒だけど運命だって気もする。僕はいつの間にかため息を付いていた。そして思わず声を漏らしていた。

「はぁーーー、桜子さん・・・気の毒」
「なんや、いきなり」

「気の毒だから気の毒だって言ったんだよ。」

僕はそれだけ言ってお好み焼きにぱくりとかぶりついた。ソースの香ばしい味が口に広がる。兄さんも不審な顔をしながらもお好み焼きに齧り付いている。

「「美味い」」

僕たちは同時に同じ言葉を漏らしたので、不意に可笑しくなって顔を見合わせると笑いあった。




(つづく)



*************

お好み焼き食べながら、人生語る兄弟。
ふふっ・・・・こんなシーンも好きなんです。それにしても、まだ「つづく」のか(笑))

駄目兄さん、以前はイラストレーター目指していたことにしてみました。でも、成功しなかったのね。そして、挫折。でも、夢を諦めきれずに今でも密かに絵を描いているらしい・・・・たぶん。









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